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宇宙空間での実験を産業用プローブがサポート

地球上の極小粒子に関しての理論的知識の開拓が進んだ今、慣性質量と重力質量の等価原理に疑問が投げかけられています。

この考えを検証するために、ドイツ物理工学研究所 (PTB) の専門家たちは、あらゆる幾何学的特性に対応できる精度 2~3µm の円筒形の試験質量を作成しました。この工学技術的偉業は、Benzinger 社製高精度旋盤とレニショー製 OMP400 プローブを組み合わせた計測ソリューションあってこその代物でした。

背景

エンジニアにとって、精度 2~3µm でコンポーネントを製造することは現在では比較的現実的な見込みとなっています。しかし、PTB の Surface Metrology working group の Project Lead 兼 Manager である Daniel Hagedorn 氏は、技術には限界があると認識しています。「現在我々が所有している機械は、一次元または二次元では、何の問題もなく 2~3µm の位置決め精度をだします。しかし、試験質量の作成には、この精度レベルを三次元でも、つまり、個々の位置だけでなく、平面、円柱、面そして角度でも保つ必要がありました」(Daniel Hagedorn 氏)

PTB は MICROSCOPE (Micro-Satellite à traînée Compensée pour l’Observation du Principe d’Equivalence) 用に円筒形試験質量 10 個の製造を委託されていました(MICROSCOPE とは:フランス政府系宇宙機関の CNES が運用する重量 300kg の小型衛星)。欧州宇宙機関を始めとする他のパートナーと共に、MICROSCOPE は等価原理の普遍性を観測します。

各試験質量の長さは 80mm で、外径は大きいものが 70mm、小さいもので 35mm。

原材料はそれぞれ白金ロジウム (PtRh10) とチタン-アルミ-バナジウム合金 (TiAl4V6) で、試験質量を実験用ディファレンシャルアクセロメーター内に同心円状に配置します。

この構成により、両試験質量の慣性モーメントを同軸上に確実に置くことができます。白金ロジウム製の試験質量は参照として使用します。そして、チタン-アルミ-バナジウム合金製の試験質量で加速度を測定し、重力質量および慣性質量の等価原理が測定精度 10~15µm で依然として有効かどうか検証します。

また、以下のように結論づけています。「予定していたとおり、あらゆる特性に対して ±1µm の精度を達成することができました。この高精度加工で、科学者たちが一般に認められている物理的法則を見直す必要があるかどうか大きく変わる可能性があります。レニショー製 OMP400 の精度と信頼性がこの我々の成功に大きく貢献しています。

ドイツ物理工学研究所

最初から最後まで、ノンストッププロセスで製造

要求された精度レベルでの試験質量の製造は極めて難しい課題でした。生産を開始する前にその作業に向けて加工工具を最適化する必要がありました。特に、白金ロジウム合金のワークは、従来の工具で加工した場合に粒子破損個々の影響を受けやすいため、面が用途に適さないものになってしまいます。特に粗い面の加工には特殊腐食処理を経て製造したダイアモンド工具が有効であると判明し、精度としては 0.2µm 未満に達しました。

しかしながら、Scientific Instrumentation design team の Heinz-Peter Heyne 氏と Stephan Metschke 氏がいち早く認識したように、要求精度を満たすには、加工工程全体を、ワークの取外し/再取付けを介さずワンステップで完了する必要がありました。この理由から、中空構造である試験質量は、Benzinger 社製の高精度旋盤 TNI Preciline で加工されていました。また、ワークの取外し/再取付けをせずに、加工ステップ間に個々の寸法を機上計測していました。しかしながら、加工を繰り返す中で、高精度な固定治具を使って慎重に作業していたにもかかわらず、最大で 0.01mm の誤差が発生していました。

そこで、要求精度で工程全体を完遂するために、PTB では高精度な計測を加工工程に直接組み込む必要性に迫られていました。加工と計測で共通の開始点から発生する不確かさと不正確を排除することが主な狙いです。

これを受けて Hagedorn 氏は、さまざまなメーカーの産業用計測システムを試しました。同氏の焦点は、旋盤の加工エリアでの計測結果の精度と繰り返し精度の比較と評価でした。その結果を踏まえ、このように話しています。「基準を満たすことができるのは、レニショー OMP400 のような高精度プローブだけだろうという結論にいたりました」

OMP400 は特殊計測ルーチンを使って、試験質量の内面および外面の真円度と円筒度を計測

検証を経て、OMP400 は 1µm の精度を達成

OMP400 にはひずみゲージをベースにした計測システムを採用しています。極めて小さい接触圧にも反応し、リシートの際の力にも影響されず、また計測システムに共通して見られるヒステリシスも最小限に抑えています。これらにより、このプローブは容易に 5µm 未満の精度を実現しています。また、プローブが面に接触する速度が速すぎることから発生する精度低下は、特殊計測ルーチンで抑制します。ソフトウェアが、プローブの振動が原因で発生した干渉を検知すると、接触を停止し計測値の記録を停止します。Heinz-Peter Heyne 氏の認識のとおり、適切な速度で計測位置までアプローチしさえすれば信頼性の高い計測結果を取得できます。そして、同氏はこの技術と他の技術を組み合わせることでプローブの繰り返し精度を 1µm 以内に確実に収めました。

プローブは、記録した計測データを旋盤の加工エリア内にある受信機に赤外線方式で、すなわちワイヤレスで送信します。この情報を CNC 制御システムがインターフェースを介して受信し、受信した情報を基に実行中の計測プロセスの制御と調整を行います。さらに、PTB は評価と文書化のために計測値をサーバーに転送する特殊なソフトウェアを開発しました。

PTB は、OMP400 と高精度旋盤による製造パーツをチェックするための複合的な検証プロセスを導入しました。多数の形状を加工した後、機械上と三次元測定機上でそのパーツを計測します。

校正済みの基準ワークも同様に、加工機上でプローブ計測し、また外部の三次元測定機でも計測します。

そして、計測結果をすべて比較し、比較データを取得します。このデータを基に、OMP400 を使って加工エリアで計測を行う場合と形状を加工する場合に、高精度旋盤の CNC コントロールシステムを更新します。

複数のワーク計測値と三次元測定機による計測値との比較で実証されたとおり、上記のようにプローブをキャリブレーションしておき、比較データを加工シーケンス中に旋盤での計測プロセスに反映しておく(その場計測、インプロセス計測)ことで、1µm 以内の計測精度を満たすことができるようになりました。

真円度と直径を算出するために、プローブは 30 点以上の円形の計測点のデータを記録しました。

円筒度は、試験質量の全長にわたって 5 点の円形の計測点を基準にした、同様なパターンで算出しました。また、試験質量の前面に刻まれた 6 個の球状の刻みの計測が特に困難であると判明しました。この刻みは、試験質量をディファレンシャルアクセロメーターに配置したときに、支持点としての役割を果たします。この球状の刻みの最大直径は 1.2mm で、この刻みを計測するための 0.3mm 特製シリコン-セラミックプローブスタイラスを Heinz-Peter Heyne 氏が開発しました。

複数の加工ステップによる反復設計で精度 ±1µm を達成

精度 1μm で製造された MICROSCOPE の世界的なスペースミッションに用いられる測定用の円筒

試験用を比較用のワークを複数製造した後、Heinz-Peter Heyne 氏は反復プロセスを用いて Pt-Rh と TiAl4V6 で最終試験質量を製造しました。まず、高精度旋盤でワークの外径を何段階にも分けておよそ 0.01mm 大きめに加工しました。

 そして、OMP400 で計測を行って計測値を記録した後、仕上げ寸法まで加工を行いました。Hagedorn 氏はこの方法が最初の試みの時点から上出来であったと述べています。また、以下のように結論づけています。「予定していたとおり、あらゆる特性に対して ±1µm の精度を達成することができました。

レニショー製 OMP400 の精度と信頼性がこの我々の成功に大きく貢献しています。原材料である白金ロジウムの必要量だけでも数千ユーロのコストがかかることを考えると、今回の結果には非常に満足しています」

等価原理について

1636 年ほど早期に、科学者ガリレオガリレイは、慣性質量と重力質量は常に同じである、と唱えました。この理論は、アインシュタインの相対性理論など、今日真実であるとされている実質すべての物理的概念の基礎になりました。

この理論では、重力が作用しているか加速力が作用しているかにかかわらず、質量は常に同じ反応をするとしています。つまり、シンプルな言い方にすると、真空状態では(空気抵抗による影響を排除するため)、鉛の塊も羽も、加速の開始から地面まで同じ時間で到達するということです。

しかし、地球の極小粒子についての近年の研究では、10~12µm という十分な高精度で計測した場合は等価原理が当てはまらないということを示唆しています。

これらの疑問の解決が、EU の MICROSCOPE によるミッションの目的です。

「地球上の」干渉による影響を排除し、密度の異なる素材から作成した、寸法がまったく同じかつ明確な 2 個の質量を無重力で高真空な宇宙空間に投じます。そして、高精度な加速度計でその反応を測定します。ブラウンシュワイクにある PTB が、この実験のために円筒形の質量を製造しました。

寸法、平坦度、円筒度、平行度そして質量のすべての隣接する面の傾斜度に対しての精度 1~2µm という製造時の高精度のおかげで、質量の寸法の最大精度 10~15µm を実現できています。これにより、宇宙の実験施設にいる物理学者たちは、極めて高い精度レベルで、異なる質量の加速度に対する反応を観測できています。もし反応の違いを特定できれば、この実験が固体物理の概念に大変革をもたらす可能性があります。

ブラウンシュワイクにある PTB の scientific machine design department 所属の Stephan Metschke 氏、Daniel Hagedorn 氏、および Heinz-Peter Heyne 氏とレニショーの Shahram Essam 氏

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  • ケーススタディ:  宇宙空間での実験を産業用プローブがサポート