ラマン分光からわかること
分子や結晶の振動を知ることができるのがラマン分光です。ラマンスペクトルが化学的な特徴や構造の特徴把握に役立ちます。
ラマンスペクトルからは、化学物質を特定したり構造情報を得たりすることができます。ラマン散乱は、光と分子の振動との相互作用から生じます。化学的性質や構造が少しでも変化すると振動も変化するため、分子環境のわずかな差も検出できます。一般的に、純金属を除くすべての物質からラマンスペクトルを取得できます。
ラマンスペクトルとは
ラマン測定の結果はラマンスペクトルとして視覚的に表示されます。Y 軸が散乱光の強度で、X 軸が光のエネルギー (周波数) を示します。レニショーではラマン散乱光の周波数の変化に着目しているため、X 軸の周波数の基準をレーザーの周波数としています。X 軸をラマンシフトとしています (単位 cm-1)。
ラマン分光からわかる情報
ラマンスペクトルは以下のように活用されています。
- サンプルの全ラマンバンドのラマンシフトと相対的強度
スペクトルの情報をもとに、サンプルを特定することができます。 - 配向性や極性が変化したときのラマンスペクトルの変化
ラマンバンドの強度と位置は、サンプルの配向に伴って変化することがあります。この変化は、励起レーザーと収集したラマン散乱光の極性を回転することで確認できます。偏向したラマン分光を用いることで、異方性物質の対称性と配向を明らかにすることができます。
- 個々のバンドの変化
ラマンバンドは、シフト (位置) が変化したり (細くなったり太くなったり)、強度 (高さ) が変化したりすることがあります。これらの変化から、サンプル内の応力、結晶化度の変動、および物質の量を把握できます。 - サンプルの位置ごとのスペクトルの変化
物質の不均一性 (不均質) が明らかになります。離れた複数のポイントを分析することも、またはポイントの列を系統的に測定することもできます (組成、応力、結晶化度などのイメージを生成できます)。
ラマンスペクトルには複数のバンドが含まれ、それぞれが振動モードに関連しています。スペクトルは物質ごとに固有です。スペクトルを用いることで、物質が何であるかを特定することができます。ラマンバンドを完全に理解し、振動モードとの関連を明らかにしようとする研究もなされていますが、スペクトルライブラリをもとにサンプルが何であるかを調べることが一般に行われています。
ラマンスペクトルの主な特徴
ラマンスペクトルの見方
ラマンスペクトルを解釈する方法のひとつとして、分子の官能基を個別の単位として考える方法があります。この方法だと、同一原子が規則的に配列され、すべてが同じ構造を持つ結晶のラマンスペクトルを簡単に理解できます。例えば、ダイヤモンドは炭素原子が立体的に規則的に配列されています。こういった場合は、顕著なラマンバンドがひとつだけであることが少なくありません (結晶の分子環境が 1 個のみであるため)。
対称的に、ポリスチレンのラマンスペクトルはもっと複雑です。分子はより不均等で、炭素原子に加えて水素原子も含まれています。さらに、原子同士もさまざまに結合されています。
ダイヤモンドとポリスチレンのラマンスペクトル。結合のタイプがさまざまであるため、ポリスチレンのラマンスペクトルのほうがダイヤモンドよりも複雑。
化学結合の特徴的な振動周波数
振動周波数は、関係する原子の質量と、原子間の結合力に依存します。重い原子で結合力が弱い場合はラマンシフトが低く、軽い原子で結合力が強いと高いラマンシフトが見られます。
ポリスチレンのラマンスペクトルでは、3000cm-1 付近で高周波数の炭素-水素 (C-H) の振動が見られます。一方、低周波の炭素-炭素 (C-C) 振動は、800cm-1 付近に見られます。C-H の振動が C-C の振動よりも周波数が高いのは、水素が炭素よりも軽いためです。
同様に、1600cm-1 付近には、強い二重結合 (C=C) により結びついた 2 個の炭素原子の振動が確認できます。これは、弱い単結合 (C-C、800cm-1) により結びついた 2 個の炭素原子よりも周波数が高くなっています。
上記のようなシンプルな規則に従うことで、ラマンスペクトルの多くの形状を説明できます。
隣接する結合の影響を受けやすいという特徴を持つラマンシフト
ラマンスペクトルを細かく調べると、より微小な効果を確認できます。例えば、ポリスチレンの C-H 振動は、2900cm-1 と 3050cm-1 付近の 2 個のバンドに表れています。前者の炭素は脂肪族炭素鎖の一部で、後者は芳香族炭素環の一部を構成しています。
複雑な分子であっても、単純な二原子分子の振動から部分的に構成されているため、その振動を観察することができます。しかしながら、原子の大きなグループの振動についても注意し、ラマンスペクトルを深く理解する必要があります。例えば、ポリスチレンのラマンスペクトルでは、1000cm-1 にバンドが見られます。ポリスチレンの芳香族炭素環の「呼吸モード」が伸縮するためです。
低周波数のラマンバンド
100cm-1 以下の低周波数のラマンシフトの分子の振動と回転についても、観察することができます。これらは、非常に重い原子か、結晶格子全体の振動など、非常に大規模な振動に由来します。レニショーのラマンシステムでこれらについて観察が可能です。幅広い物質や結晶を調査でき、結晶性形状 (多形体) や層状構造を容易に見分けることができます。
ラマン分光による物質特定の原理
未知の物質でも、固有のラマンスペクトルからその物質が何であるかを特定することができます。スペクトルライブラリのソフトウェアサーチを用いることが一般的です。指紋領域 (300cm-1~1900cm-1) のラマンバンドを用いて分子を特定します。
ラマン領域全体で高いスペクトル分解能を有するラマンシステムを使用するのが理想的です。より優れた化学的特異性を確認でき、また、より多くの物質を同定、判別、調査できるようになります。
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- ラマン効果とは
- ラマン分光とは
- ラマンイメージからわかること
- ラマン分光の利点
- ラマンマイクロスコープの構成品
- フォトルミネセンスとは
ラマン分光を使った結晶化度と多形性の把握
ラマンスペクトルを比較することで、物質の構造の違いを調査することができます。結晶化度を数値化し、同じ化学物質の類似した各結晶形 (多形) を区別します。この作業には、inVia™ コンフォーカルラマンマイクロスコープのような高いスペクトル分解能を有したラマンシステムが必要です。
ポリエチレンサンプル 2 個のラマンスペクトル。強度とバンド幅に差が見られます。結晶化度が変化することが要因です。
左: 炭化ケイ素 (SiC) のポリタイプ 3 個のスペクトル。
右: SiC 多形体 4H-SiC、6H-SiC および 15R-SiC の結晶構造。
ラマン分光なら、SiC の多形体 4H、6H および 15R を容易に識別することができます。半導体業界では、SiC の多形体の製造を制御することが重要です。ラマン分光とは
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ラマン分光の概要